冬:白菜

朝晩には息が白く曇り、落ち葉の舞う音が聞こえてきます。

暖かいものが恋しい季節になりました。 鍋物に相性の良い白菜は、冬が本場です。まだ暖かいうちに芽を出し、太陽に当たって葉がきゅっと締まって結球(玉を作る)します。この時期の寒暖が、肉厚で水分たっぷり、甘みのある白菜を育てます。もちろんビタミンやカルシウムも豊富。冬場の貴重な野菜です。

関東では秋から冬に出荷されますが、鎌倉では寒さが本格的になる頃から春先までが出荷時期。緑もみずみずしく、茎の白さもひときわ輝き、丸々とした大きな白菜が畑で育ちます。遅めに出荷される白菜は寒さから守るため、外側の葉をわらでしばって畑で寒さをすごします。なんだか帯をしているみたいでチャーミング。暖かくなると、白菜からアブラナのような黄色いかわいい花がちょこんと咲きます。

鍋、煮物、漬物にサラダ。白菜は万能選手。食卓をおいしく楽しく飾ってくれま

秋:松茸

秋の味覚。栗、銀杏、サツマイモ、かぼちゃ。でもやっぱり松茸は別格。八百屋の店頭にもさまざまな松茸が並びます。国産、輸入物、大きなもの、まだかさも小ぶりなもの。どれもあの独特な香りを漂わせています。

松茸の生える場所は下草のない、きれいな山の松林。松の落葉がしき積もるやわらかい土をさくさくと踏んで探すと、こんもりした落ち葉の下にちょこんと隠れていたりします。つみたての松茸は水分を含み、小さくても、しっとりして重みがあります。もちろん、あたりいっぱいに香ばしくてやさしい香りがひろがっています。今は韓国、中国、カナダからの輸入物もあります。大切な香りが飛ばないよう気をつけて運ばれるため、以前よりずっと品質がよくなりました。やっぱり私たち日本人は松茸が大好き。ちょっと贅沢な香りに、「秋」の豊な光景を重ねています。

鉢の木では、松茸を土瓶蒸し、焼き松茸、お吸い物などに調理します。秋の味と香りを存分に生かして。ぜひお楽しみください。

秋:かぼちゃ

天気が良ければ日中は汗ばむほどなのに、朝夕になると寒さを感じる季節。この時期は町のあちこちでハロウィーンにちなんででしょうか、かぼちゃを見かけます。深い緑色の外見に、中は鮮やかなオレンジ。どこか懐かしい名前の響き。見ただけで楽しくなってしまいます。

世界中で愛されているかぼちゃが日本に入ってきたのは戦国時代。カンボジア経由で入ってきたポルトガル人が伝えたとか。カンボジアがなまってかぼちゃ。ちょっとずぼらなエピソードですが、このユーモラスな名前がかぼちゃの愛らしさにぴったり。

この時の原種は中米産でしたが、それ以降「和かぼちゃ」として、各地でとうなす、南京などと呼ばれ作られます。明治以降、水分が少なく甘みが多い南米産の「西洋かぼちゃ」が広まりました。いまではこちらが主流ですが、要は和かぼちゃでも西洋かぼちゃでも、日本の風土に合って広がり、さまざまな種類が生み出されていった、ということでしょう。

キュウリ、スイカ、ヘチマと同じウリ科の植物。そういわれても、色や形が似ているような、似ていないような・・・。何より濃厚な味が他のウリ科植物とはずいぶん違う気がします。植物繊維を多く含み、各種ビタミンやカロチンも豊富。がん予防にも役立つと言われています。実と同様に栄養価が高い種も、いって食べるとちょうど良いおつまみにもなります。

かぼちゃが畑で大きく育つのは夏場。強い日差しの中、緑のつると葉っぱが畑をおおい、黄色の大振りな花の後ろにちょこんとコブのようなものができます。花がしぼんだ後、大きくなっていくコブが実です。ちいさなかぼちゃが、日に日に力強く大きくなっていきます。かぼちゃは実は夏野菜なのです。
収穫されたかぼちゃは風通しのよい日陰に置かれます。取れたては甘みが少なくぱさぱさですが、この熟成期間を経て甘みを増し、果肉の色も一段と鮮やかに赤みを帯びてホクホクとした食感になったかぼちゃが秋に出荷されるのです。

種まき、栽培、収穫、熟成。災害にあわないように、虫がつかないように、傷がつかないように。ずっと大切に見守られたかぼちゃ。鉢の木では、油との相性もよく色彩も活かせることから天ぷらの具材としても使います。さくさくの衣とやわらかい歯ごたえ、コクのある甘みがが口の中に広がります。そんなあたたかい野菜、味わってください。

夏:トマト

小さな時は固いみどり。やがて大きくなるとつややかな真っ赤になるトマト。たわわに実った果実は、緑のとさかをちょこんとつけて見た目にも愛らしく、甘みもあり、栄養価も高い。鉢の木でも欠かせない食材です。

さまざまな種類の野菜が作られている鎌倉北部の農振地区、関谷では、数軒の農家はトマト専業。もともとアンデス原産で、高温で湿度が低いことを好むトマトを、温室で雨よけをしたり、支柱を立てて支え、大切に大切に育てています。大ぶりでしっかりしていて緻密な果実。遠くからこの質のよい野菜を求めて来る方もいます。

イタリア語では黄金のリンゴ(ポモドーロ)、フランス語では愛のリンゴ(ポムダムール)と呼ばれるトマト。太陽の恵みを一身に受けた野菜は、他の素材と調和し、和の食材としていかされても存在感があります。その恵みの味をお楽しみください。

夏:獅子唐

鮮やかな緑色で細身なのにごつごつとした、ちょっと不器用な形がユーモラスな獅子唐(ししとう)。

先端の部分がへこみ、その中に小突起がある姿が獅子の顔に似ているのでその名が付いたとか。言われてみると個性的でチャーミングな顔が見えてきます。食べるとほかのものは何てことないのに、時々とても辛い実もあります。「大当たり〜」なんて、言ったものです。
原産は中南米。日本には16世紀ごろポルトガル人によって伝えられ、今ではすっかり和風になじみました。ナス科の植物でピーマンや唐辛子と同じ種類、栄養も豊富です。

鎌倉の畑でも、濃い緑の葉の影から獅子唐の白い花や果実が顔を出しているのが見られます。可憐な花は下を向いて、あたかもうつむいているようです。夏の日差しを浴びて日に日に緑が濃くなる果実は、大きくなると赤く染まります。色鮮やかな獅子唐の木は、ひときわ人目を引きます。

鉢の木ではてんぷらにしたり、焼いたり、さまざまなお料理に使います。熱を加えると栄養も吸収しやすくなります。加熱しても実が破裂しないよう、てんぷらの場合は小さな穴を開けておきます。丁寧に調理された獅子唐。鮮やかな色彩と季節の味をお楽しみください。

初夏:鯛

鯛はお祝いの席にふさわしい魚です。

「おめでたい(鯛)」とか、大位(たいい)=高い位の人と語呂が良いとか、魚へんに周(あまねく=すべて)は魚の王様などといわれます。その均整の取れた形と鮮やかな色、淡白な味は古くから日本人に好まれてきました。

島根県の三保関の鯛祭など、鯛にまつわるおめでたい風習や神事は、日本各地に残っています。浦島太郎の「鯛や平目の舞い踊り」や七福神の「恵比須さまの持っている魚」としても親しまれています。近年では釣ったときの手応えがいいと、釣り好きのターゲットにもなっています。

喜ばしく、馴染み深い鯛。精進料理には使わない素材ですが、鉢の木ではお祝い用の会席料理として調理いたします。この季節は多くの鯛が、鎌倉近くの葉山漁港で水揚げされます。新鮮で力強い鯛を姿焼きにし、贅沢に盛り付けました。

鉢の木の「祝い鯛 大皿盛」です。

初夏:たまねぎ

丸々とした大玉。初夏にはたまねぎが旬を迎えます。

秋に撒かれたたまねぎは、日に日に寒くなる中、畑をおおったビニールの穴から芽を出します。発芽のためにはエネルギーが要るのでしょう、土が温かい必要があるのです。ひとたび発芽すると、寒さや暖かさにさらされます。気温の差が野菜の甘さを引き出します。数ヶ月すると葉の成長が止まり、養分は根に蓄えられていきます。たまねぎが土の中で育っていくのです。そうして約半年。土の中でゆっくり養分を蓄え大きくなったたまねぎは、葉が倒れる初夏に収穫されます。貯蔵もしやすいので、この時期農家の軒先でさおに掛けられ日陰干しをする懐かしい光景も時折見かけます。

明治時代に日本に入ったたまねぎは、当初、刺激的な匂いから普及に時間がかかりましたが、その辛味と甘みが肉類と相性もよく、透明な白さもほかの食材と調和するので、いつの間にか和食に取り入れられました。煮たり焼いたり揚げたり料理のアクセントにもと広く使われます。そんなたまねぎ、今では日本人の最も好む野菜のひとつとなりました。

初夏:豆類

「ジャックと豆の木」のように、クルクルとまいたつるの先っぽが、お日さまの方へ、お日さまの方へ。
手を伸ばすように、どんどん延びる様子が、なんともけなげな豆類。
エンドウの花はスイトピーに似て、ちょうのように可憐です。
鞘の布団の中で豆がもこもこと育っていくのも、ユーモラスでかわいい。
鎌倉市北部の農業地区・関谷の畑では、この時期、エンドウ豆たちが仲良く育っていくのが見られます。

大豆、エンドウ、レンズマメ、ソラマメ、インゲン、フジマメ、落花生。
豆類は種類も多く、エンドウのようにさやごと食べるもの、大豆のように実を食べるもの、クズのように塊根を利用するもの、若い茎葉を食べるものと、食べ方も多様です。原産地もアフリカ、アジア、アメリカ大陸といろいろ。すでに古代エジプト時代から食されてきた長い歴史もあります。ゆでると鮮やかな緑色になるものが多く、料理にも、お菓子にも素材として使われます。

この時期の料理では、主役になったり、彩になったり。鞘ごとだったり、豆だけだったり。でもどこかに顔を出して、初夏らしいさわやかさを感じさせてくれます。

長く付き合えて、頼もしく、おいしい友だち。
料理の素敵なパートナーを味わってください。

梅雨〜夏:梅

鎌倉人は梅が好きです。

6月になると庭に梅の木があるお宅では、家人がそわそわと実の熟れ頃を確かめる姿が見受けられます。八百屋の一番の場所に、さまざまな産地の、さまざまな種類の梅の実が並び、梅酒やジュースをつける瓶がコンビニにも並びます。「今年の梅の実はどう? どうやって作るの? どんな梅干になるのかしら」といった会話が友人同士で交わされます。

そして7月の半ばには気の早い友人が“今年の梅・自家製梅酒や梅干”を持ってきてくれます。まだ熟成しきっていないさわやかさが魅力の梅を食しながら、友人同士で今年の味を確かめるのです。

こんなふうに鎌倉人が梅好きなのは、お酒や梅干を作る「梅仕事」が、季節を感じる奥深い作業だからでしょう。できあがったものを分かち合える喜びもあります。

ジュース、お酒、ジャム、ゼリー。
早いものから熟成されたものまで梅料理でいろいろ楽しめますが、やはり梅干が一番。大人から子どもまで食べられますし、色も味も日本人にはなくてはならないものですから。

もちろん鉢の木でもこの季節、選び抜いた梅で梅干をつけます。
一つ一つの工程で自然の恵みを感じ、お客様に食べていただく喜びを予感しながら。



太陽の惠みをたっぷりうけ、このくらいに色づいた梅を選びます。鮮やかな色とひきしまった肉厚の実。この頃合いを見極めることが肝心です。


竹串で梅の実の生り口を取り除き、きれいな水でよく洗い、汚れを落とします。


ざるにあげ、水氣をしっかりと切り、塩を用意します。今年は梅の重さの16%の天然の粗塩を使って漬けこみました。お好みにあわせて分量を調節して下さい。


容器の底全体に塩を振りまき、梅を2段ぐらい重ね、また塩を振る作業を繰り返します。
重石をして約2週間。その頃になると赤紫蘇が市場に出回り始めます。


ひたひたと梅酢が上がってきました。このぐらいまで来たら梅酢を別容器に移します。


軸を取った赤紫蘇を洗い、塩を振ってよく揉み、あくを出します。あく抜きが充分にできたら梅酢につけます。


容器の梅干の上に赤紫蘇をかぶせるように入れます。一番上の赤紫蘇が梅酢に浸るくらいがちょうどいい入れ方。今まで通りに重石をして日のあたらない場所で1〜2週間。ころあいを見て三日三晩干し、さらに赤みをつけると完成。


黄金色の、ちょっとつんとするフルーティーなこの液体が容器にあがってくると、何とも言えないわくわくする気持ちも高まります。今年もここまで上手に育って、おいしく漬かってくれそうだ、と。まん丸だった梅がちょっとしわしわになってくるのも嬉しい。

梅酢は赤紫蘇用を少しとりわけて、残りは別の瓶に入れます。これが芝漬けに、ドレッシングにと大活躍。梅干のほうには梅酢と塩でもんだ赤紫蘇を加え、さらに漬けます。

1〜2週間たち、梅雨が明けたころが「梅仕事」のクライマックス、天日干しです。三日三晩屋外に干し、太陽にさらします。さらすと梅干の色がよくなるのです。出しつづけるのですから晴天が続く頃を選ばなくてはなりません。梅の漬かり具合を考え、天気を予測して時期を決めます。自然と共に作ることをかみしめるのはこんな時です。

こうしてゆったりと干された梅たちは自然の力で美しい赤に染まり、梅干は完成するのです。

7月下旬になるとその梅酢を使った鉢の木特製の柴漬け(新鮮な夏野菜の即席漬け)を毎日お客樣に召し上がって頂くことができるようになります。どうぞお楽しみに。

春:竹の子

今年は例年通り出てきた鎌倉の竹の子たち。待っていました。
土の中で生まれた竹の子は自然のうまみを抱きかかえ、皮で幾重にも包まれて芽を出します。市場に並ぶものは朝掘られ、力強く、若々しく、そして愛らしい。根元に残る土も乾いていません。

 そんな竹の子を鉢の木ではこの季節、山家煮(やまがに)に使います。山家煮は東北地方の郷土料理がもとで、季節の食材を味噌で煮たもの。少し濃い目の味です。この料理は素材の抱えているうまみを引き出すため、下ゆでせずに水からコトコトと数時間かけて直煮(じかに)します。だしはこの野菜自身のうまみと昆布とだけ。甘味がじっくり煮出されて、なんともいえないおいしい煮汁(地)ができるのです。食べる相手の好みの硬さを考えながら、この地を使い3種類のあわせ味噌で竹の子に味をしっかり染み込ませます。同じく地と味噌で味付けしたわかめや油げと合わせ、彩りの水ふきを加えた、鉢の木オリジナル春の「山家煮」。創業以来40年近く続く味をどうぞお楽しみください。