鎌倉人は梅が好きです。
6月になると庭に梅の木があるお宅では、家人がそわそわと実の熟れ頃を確かめる姿が見受けられます。八百屋の一番の場所に、さまざまな産地の、さまざまな種類の梅の実が並び、梅酒やジュースをつける瓶がコンビニにも並びます。「今年の梅の実はどう? どうやって作るの? どんな梅干になるのかしら」といった会話が友人同士で交わされます。
そして7月の半ばには気の早い友人が“今年の梅・自家製梅酒や梅干”を持ってきてくれます。まだ熟成しきっていないさわやかさが魅力の梅を食しながら、友人同士で今年の味を確かめるのです。
こんなふうに鎌倉人が梅好きなのは、お酒や梅干を作る「梅仕事」が、季節を感じる奥深い作業だからでしょう。できあがったものを分かち合える喜びもあります。
ジュース、お酒、ジャム、ゼリー。
早いものから熟成されたものまで梅料理でいろいろ楽しめますが、やはり梅干が一番。大人から子どもまで食べられますし、色も味も日本人にはなくてはならないものですから。
もちろん鉢の木でもこの季節、選び抜いた梅で梅干をつけます。
一つ一つの工程で自然の恵みを感じ、お客様に食べていただく喜びを予感しながら。
1
太陽の惠みをたっぷりうけ、このくらいに色づいた梅を選びます。鮮やかな色とひきしまった肉厚の実。この頃合いを見極めることが肝心です。
2
竹串で梅の実の生り口を取り除き、きれいな水でよく洗い、汚れを落とします。
3
ざるにあげ、水氣をしっかりと切り、塩を用意します。今年は梅の重さの16%の天然の粗塩を使って漬けこみました。お好みにあわせて分量を調節して下さい。
4
容器の底全体に塩を振りまき、梅を2段ぐらい重ね、また塩を振る作業を繰り返します。
重石をして約2週間。その頃になると赤紫蘇が市場に出回り始めます。
5
ひたひたと梅酢が上がってきました。このぐらいまで来たら梅酢を別容器に移します。
6
軸を取った赤紫蘇を洗い、塩を振ってよく揉み、あくを出します。あく抜きが充分にできたら梅酢につけます。
7
容器の梅干の上に赤紫蘇をかぶせるように入れます。一番上の赤紫蘇が梅酢に浸るくらいがちょうどいい入れ方。今まで通りに重石をして日のあたらない場所で1〜2週間。ころあいを見て三日三晩干し、さらに赤みをつけると完成。
黄金色の、ちょっとつんとするフルーティーなこの液体が容器にあがってくると、何とも言えないわくわくする気持ちも高まります。今年もここまで上手に育って、おいしく漬かってくれそうだ、と。まん丸だった梅がちょっとしわしわになってくるのも嬉しい。
梅酢は赤紫蘇用を少しとりわけて、残りは別の瓶に入れます。これが芝漬けに、ドレッシングにと大活躍。梅干のほうには梅酢と塩でもんだ赤紫蘇を加え、さらに漬けます。
1〜2週間たち、梅雨が明けたころが「梅仕事」のクライマックス、天日干しです。三日三晩屋外に干し、太陽にさらします。さらすと梅干の色がよくなるのです。出しつづけるのですから晴天が続く頃を選ばなくてはなりません。梅の漬かり具合を考え、天気を予測して時期を決めます。自然と共に作ることをかみしめるのはこんな時です。
こうしてゆったりと干された梅たちは自然の力で美しい赤に染まり、梅干は完成するのです。
7月下旬になるとその梅酢を使った鉢の木特製の柴漬け(新鮮な夏野菜の即席漬け)を毎日お客樣に召し上がって頂くことができるようになります。どうぞお楽しみに。